【イラスト:ツバキFujimoto, Takayuki】

 

ツバキ‘紅乙女’(ツバキ科)Camellia japonic a L‘. Ko-otome

花を描いていると、たまに小虫が舞う時がある。「おまえにも魂があるのか」と
見入る。「パチン」背後からそっと近づいた妻は、大事そうに両手を拡げ、満足げ
に獲物を見ながら言う。「とうとう捕まえた。この頃飛ぶのよ。画用紙の白に反応
するらしいのね。虫に絵の花が分かるはずが無いじゃないの。うぬぼれないで
ね。」あわれ小虫。これが災難。椿。乙女の椿。女性には等しく乙女と呼ばれた
ほんの短い期間があったはずである。

【イラスト:ライラック(C)Fujimoto, Takayuki】

ライラック(モクセイ科)Syringa vulgaris
約20 年前、レニングラードへ行ったことがある。
その日は快晴でネバ川河畔では日光浴の人々。 
通りにはライラックが咲き誇り歴史の街を彩っていた。
一方、共産体制が弱り、価値の下ったルーブルを外貨に替えるべく、街角のあちこちで
声をひそめて近寄って来る紳士。 大国、ソ連がこれほどぶざまだとは思ってなかった。
翌年、ソ連は崩壊した。レニングラードという市名も消えた。
だがあの通りのライラックはたぶん今年も咲いたことだろう。
 

作者 プロフィール

藤本孝幸Fujimoto, Takayuki(千葉県)
1939年(昭和14年)神戸生れ
植物画は退職後の2002年に習い始めました。現在、読売文化センター京葉で、後藤裕子先生の指導を受けています。
私は囲碁も趣味にしていますが、囲碁の他に何か趣味を持ちたかったからです。囲碁の棋風は力戦派。平穏に治まりそうな局面でも戦いを挑んでいく荒事師。一転、植物画は細かいものを描くのが好きで、囲碁仲間からは、日ごろの棋風との乖離を冷やかされています。
 在職中は鉄鋼関係の各種機械の営業一筋でやってきましたので、他社との競合、お客様の顔色などを気にする利害のからむ人間関係に浸っていました。お陰で、人間学を学ばせてもらいました。その点、植物との関わりはこれまでの人生とは全く異なる穏やかな世界で癒されています。
生来、欲張りで短気、感激派。モチーフを前にすると植物の生命感に感激し、自分の技量をわきまえず、どんどん構想が広がりすぎて収拾がつかなくなるのも欲張り故のことです。
先生からは作品の矛盾の説明を求められるのはいつものことで、宙に浮く花、物理学上、あり得ない浮遊体を指摘され、最早、修正が効かない作品にため息をつくことになります。
しかし、翌日、また新しいモチーフを探すファイトは、現役時代、受注を失敗した後、すぐにギヤーを入れ替えることが出来たのと、相通ずるものがある。オプティミストかも知れない。

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