開発による水辺植物の危機[1](資料p4)

ヒトと生き物が共存する水辺環境

水辺環境は山間部の森林とともに、日本の豊かな自然を形成しています。私たちの祖先もこの豊かな自然を背景に暮らしを立て水稲を耕作する頃には水辺近くに住居を構えて水辺の植物を様々に利用してきました。

【イラスト:マイヅルテンナンショウ】
マイヅルテンナンショウ

かつて、この国を豊葦原の国と呼んだヨシ原とヤナギやハンノキの林が広がる低水湿地は徐々に水田にとって代り、瑞穂の国へと変容していきます。農業用に作られた溜め池や用水路の小川も、水辺の植物の他にフナやドジョウ、メダカなどの魚やタガメ、ゲンゴロウなどの水生昆虫といった生き物の棲み家を提供する多様な環境となりました。また、ホタルやカエル、トンボといった私たちに馴染みのある生き物のかけがえのない生活場所でもあります。 自然の水辺環境をたくみに利用してきた先代の人々は、水辺の環境を生活の場に改変しつつも、自然の生態系を根底から損なうことなく、多様な生き物の棲む環境を維持してきたのです。

「ふるさとの水辺」を取り戻そう

絶滅危惧植物が集中する水辺の環境は遠い祖先からヒトの営みと自然が長い時間かけ、折り合いをつけながら共存してきた親しみのある「ふるさとの水辺」といえるでしょう。 しかし、かつてはどこにでも普通に見られた水辺の植物が絶滅を心配しなければならないほど、事態は深刻です。 いま、水辺の環境は自然の生態系を無視した開発の荒波に呑み込まれようとし、水辺の植物の多くが消えゆく運命にあるとともに、「ふるさとの水辺」を失おうとしています。 水辺という限られた環境の棲み家とする植物に、私たちは、もう一度眼を向ける時なのかもしれません。

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