ラン科の植物が危ない(資料p9)

野生植物を絶滅に追いやるもうひとつの主な原因は園芸目的の乱獲とされています。その中で最も深刻な打撃を受けているのがラン科の植物です。レッドデータブック(1989年)では、日本のラン科植物約280種のうち98種がリストアップされてしまいました。

【イラスト:キエビネ】
キエビネ(ラン科)
森林に生える地生ラン。エビネに似て、偽球茎は球状。葉は2〜3個ついて、ややまばらに8〜15花をつける。唇弁の中破片が2裂しない点が異なる。
園芸用の採取、森林伐採。

愛好家が園芸目的で山野草を栽培することは決して悪いことではありませんが、園芸店で売られている山野草の中には、一部の悪質な山野草業者の山採りのものが含まれていることがあります。現在ではラン科に限らずキキョウやフクジュソウといった私たちに馴染みのある植物の中にさえ、自生地から山採りしてきたものがある状況です。従って需要がある限りは愛好家や悪質な業者による山採りが、なくなることはないでしょう。

国・地方レベルで法的規制を

そこで乱獲による種の絶滅を防ぐために行政的な対策を講じる必要が出てきました。

1996年の自然環境保全審議会の野生生物会では「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」で国内希少種に指定されている多年草「ハナシノブ」の生育地の保護区指定を環境庁に答申しました。翌年には盗掘で絶滅のおそれがあるラン科植物のアツモリソウとホテイアツモリの2種を追加発表しています。

地方においても山梨県が高山植物の保護に関する条例を制定し採集を禁止したうえで特定高山植物の栽培・販売の事業を届け出制とするような実効性のある法的規制を行っています。

絶滅の現状を正しく理解することから...

【イラスト:ホテイアツモリ】
ホテイアツモリ(ラン科)
亜高山帯草原に生える地生ラン。アツモリソウに似るが、花が紅紫色でアツモリソウより濃く、唇弁の形はやや円い感じである。
園芸用の採取、植生の遷移。

前述のレッドデータブック(1989年)でリストに挙げられた全種895種の28%にあたる約250種が山野草家・業者による園芸目的の乱獲が原因と言われていますが、法的に規制されている植物は絶滅の危機が差し迫った種に限られています。このように全ての種を法の監視下のもとに保護するのは、今のところ不可能でしょう。

ですからこの問題は、一部の心無い愛好家・山野草業者に法的な規制を設ければ解決できるといったものではなく、それと認識しないで山採りの山野草を買うことが結果的に、野生植物の絶滅に加担してしまう深刻な事態があることを、正しく理解する必要があります。

従ってこの問題の背景を深く掘り下げると、私たちの自然観、倫理観といった人間の心の問題にまで突き当たることになります。乱獲によって消えゆこうとする野生植物の現実に目を逸らすことなく、私たちはどのような姿勢で向かい合わなければならないかを今こそ真剣に問われているのではないでしょうか?

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